京大生らが貨物列車に飛び乗った事情とその背景

8月下旬の、男子学生が貨物列車に乗って途中で降ろされて、元の駅に連れ戻された事件の詳細。

izaより
『京大生らが貨物列車に飛び乗ったワケ』
配信元:産経新聞
2011/10/29 11:47更新

 大津市南小松にあるJR湖西線近江舞子駅。のどかな田園地帯の中にあるこの駅で8月下旬、駅のホームに停車中だった貨物列車に、夏休み中の京都大学生ら3人の男子大学生が飛び乗るというアクシデントが起きた。コンテナと土台車両のわずか幅約60センチの隙間にしゃがみ込み、約7キロ離れた地点まで走行。だが、運転士に見つかり列車は緊急停車。3人は滋賀県警大津北署に鉄道営業法違反の疑いで、事情を聴かれた。3人は、駅から約15キロ離れた地点にあり環境省選定の「平成の名水百選」の一つ「針江の生水(しょうず)」(滋賀県高島市)に「行こうとした」と話したという。3人は中学、高校の同級生。どんな思いで無謀な行為に及んだのか。(本間英士、加藤園子)

 「男の人3人が、止まっていた貨物列車に飛び乗ったようだ」

 8月24日午後5時ごろ、JR近江舞子駅のホームにいた男子中学生が、時間調整のため停車していた松山発金沢貨物ターミナル行き貨物列車(21両編成)に飛び乗った男3人に気づき、駅員に知らせた。貨物列車は直後に出発したが、駅員から連絡を受けたJR西日本の運転指令所(大阪市)が、緊急停車を指示。列車は同駅から約7キロ先の北小松-近江高島間で停車し、運転士が車両を点検したところ、13両目にいた男3人を発見した。

 運転士は3人を降ろし、逆方向から現場付近に走行してきた大阪行き特急「サンダーバード34号」を緊急停車させ、3人を近江舞子駅に連れ戻した。

 貨物列車はそのまま予定通り金沢貨物ターミナル駅に向け発車したが、このトラブルの影響で、JR湖西線などで5本が運休。上下線15本が最大約1時間運転を見合わせ、約3200人に影響が出た。

 一方、特急電車に乗せられた3人は近江舞子駅で降ろされ、大津北署員に引き渡された。同署は、鉄道営業法の33条で罰金などの対象になっている運転中の乗降に抵触する恐れがあるとして、同法違反の疑いで3人から事情を聴いた。県警は慎重に捜査を続けている。

 県警によると、3人は京都大2年、新潟大2年、東京外国語大1年の19~20歳=いずれも当時=の男子大学生で、愛媛県内にある中学、高校時代の同級生だったという。捜査員に対し、3人は、環境省選定の「平成の名水百選」の1つ「針江の生水」に「行きたかった」といい、「名水巡りに興味があり、夏休み中、仲がいいメンバーで行ってみようと思った」と話したという。

 それにしても、なぜ貨物列車だったのか。県警に対し、3人は「乗るはずだった列車が遅れ、焦っていた。ちょうど駅のホームに停車していた貨物列車に乗れそうだったので、乗ってしまった」と説明したという。

 当日、京都府内のJR東海道線の踏切で、大型トラックが立ち往生したため、同線のほか湖西線でもダイヤが乱れていた。捜査関係者によると、3人はJR京都駅で湖西線の近江舞子行き普通電車に乗車、「針江の生水」の最寄り駅、JR新旭駅(滋賀県高島市)まで行こうとしたが、近江舞子駅では電車が約1時間遅れていたという。

 ■惨事にもなる危険行為

 貨物列車は乗客を想定していない。3人はどのような場所に乗り、7キロの行程を走ったのか。

 貨物列車運行を担うJR貨物関西支社(大阪市)によると、貨物列車は、土台車両にコンテナが1~5個搭載されている。3人が乗った車両のコンテナは1個だったが、コンテナと土台車両のうち人間が入れる空間は幅約60センチ、長さ約2・5メートルしかない。3人はここに並んで手すりにつかまり、しゃがみ込んで乗車していたという。

 貨物列車は通常、時速75~130キロで運行。3人が乗っていた列車は95キロ程度のスピードを出していた。

 JR貨物関西支社の広報担当者は「何らかの原因で急停車すれば、その勢いで外に飛び出ることも考えられ、大惨事になる可能性もあった」と指摘し、「海外の映画やドラマを見ると、貨物列車に乗りこむシーンが出てくるため、簡単にできそうな気がしてしまうかもしれないが、極めて危険。絶対に乗車しないでほしい」と警鐘を鳴らす。

 さらに、貨物列車は基本的には途中下車しない。3人が乗った列車も、近江舞子に停車したのは時間調整のためで、その後は「針江の生水」の最寄り駅・新旭駅には停車せず、福井県敦賀市の敦賀駅までノンストップで運行していた。

 県警によると、3人は捜査員に、憔悴(しょうすい)した表情で、「各駅に止まると思っていた。速度が上がって怖かった。軽はずみな気持ちでした。申し訳ありませんでした」などと、反省の言葉を口にしたという。

 捜査関係者の1人は「3人の乗車がたとえ、だれにも見つからなかったとしても、敦賀に到着するまでは降りられない。敦賀から新旭まで引き返すには、乗車時間だけで1時間ほどかかるうえ、電車待ちなどを考えれば、『針江の生水』には当日中にはたどり着くのは難しかっただろう」と話す。

 ■名水百選地元は「残念」

 3人が、危険極まりない貨物列車への乗車までして、見てみようとした「針江の生水」とはどんなところだろうか。

 「針江の生水」とは、琵琶湖に近い針江地区(滋賀県高島市新旭町)で、住民が生活に利用している湧き水のことをいう。各家庭で小さな池のようなたまり水を設け、野菜や食器を洗ったり、コイを育てる池の水に使ったりと、さまざまな用途がある。もちろん、飲み水としても利用されている。

 県西部にそびえる比良山系に降る雨や雪が、琵琶湖に注ぐ安曇川の地底に浸透している伏流水となり、地表にわき出ている。水は生活の中で汚れるが、コイが料理の残飯などを食べて浄化され、地区の小川を通り、琵琶湖に流れる。

 こうした暮らしは川と密着し、美しい風景をつくり出したとして、環境省が平成20年6月、「平成の名水百選」に認定した。

 「きれいでしょう。くせもなくてよく冷えていて、とてもおいしい。最近では若い人もけっこう足を運んでくれるんですよ」

 自然環境の保全活動を行う市民団体「針江生水の郷委員会」メンバーの住民男性(67)はそうほほえむ。

 地区では、ボランティアガイドとともに「生水」を見学するツアーが平成16年から続けられており、参加者は開始当初、年間約500人ほどだったが、昨年には約900人に増加している。最近はツアーに環境学習を目的として訪れる高校生や大学生も多く、参加者の2割程度を占めるという。

 「針江生水の郷委員会」のメンバーの男性は「ここの水はどこにも負けないくらい質が高い水だし、周りの環境もすばらしい。ぜひ一度足を運んでほしい」と話すが、大学生らが貨物列車に飛び乗ったことには「興味を持ってもらったことはありがたいが、世間に迷惑をかけた出来事。針江の名前が出たのは残念」と悲しい表情をみせた。

http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/crime/533316/

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