公共施設老朽化が一気に深刻化する

『これが言いたい:2010年代、公共施設老朽化が一気に深刻化する=東洋大学経済学部教授・根本祐二』

 ◇発想変え「インフラ崩壊」阻止を
 学校、病院、図書館、庁舎、公営住宅、道路、橋、上下水道。われわれのまわりには多くのインフラが存在し生活を豊かにしてくれている。

 だが、今大きな問題が明らかになりつつある。インフラの老朽化である。放置すれば危険、かといって更新する財源はない、減らすには反対が多いという八方ふさがりの状態が全国で起きている。

 80年代、米国では古い橋の崩壊や使用停止が相次いだ。危機を認識した米政府は老朽インフラの更新に取り組んだ。この時期に事故が起きたのは不思議ではない。その50年前の30年代、当時のルーズベルト大統領が大恐慌後の大量失業を解消するため、全米でダムや橋などの公共事業を実施した。その橋が50年を経て老朽化し事故が起きたのだ。

 日本も同じことが起きる可能性がある。日本の橋の大量建設期は60年代前半、東京五輪に備えて急ピッチに公共投資が行われた時期だ。首都高速道路の有無など、63年と64年の東京の写真を比べると別の国のようだ。これらインフラが50年経過するのが2010年代、「今」なのだ。

 「米国の橋は落ちても日本の橋は落ちない」という俗説に根拠はない。落ちるほど古い橋が日本になかっただけであり、今後老朽化すれば加速度的に危険は増す。橋以外も同じだ。2014年は東京五輪開催50周年だが、老朽化を放置すれば、インフラ崩壊元年になるだろう。

 すでに予兆もある。東日本大震災では、震度6以下で津波被害と無関係な場所でも人命にかかわる崩壊事故が起きた。福島県の藤沼ダム、茨城県の鹿行大橋はその例だ。東京都の九段会館ではホールの天井が崩落して2人の方がなくなった。20カ所以上の自治体庁舎が全壊、使用停止に追い込まれた。

 震源から遠い首都圏の自治体庁舎にも、被害を受け建て替えを進めている例がある。昔の法律でも震度6には耐えるように設計されていた。震災はきっかけに過ぎず、真の原因は老朽化なのだ。

 老朽化していても予算があれば問題はない。だが、公共事業予算は2000年代に入り減り続け、それ以前の半分以下に落ち込んでいる。高齢化や景気低迷で税収が減る一方、社会福祉費が激増している。「増大するインフラ更新需要を、減少する公共事業予算で賄わなければならない」事態に陥っている。

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 できるだけインフラの機能を維持しつつ財政負担を減らす民間的なマネジメントが必要だ。まず、実態を把握する。東洋大学では将来の更新投資金額を容易に計算できるソフトを無償で公開している。今まで計算した全自治体で、従来通りの更新は不可能との結論が出ている。

 この機に発想を変えよう。隣町と同じものを造るのではなくお互いに役割を分担して共用する。学校を中心に児童館、公民館、デイケアなどの多機能施設に建て替え、公営住宅は民間住宅への家賃補助に切り替える、空いた土地は民間に売却・賃貸する、建物や道路などは町全体を包括的に管理する、上下水道は必要箇所だけに間引き計画的に管理する、民間資金を導入するなどの処方箋がある。

 従来型の発想に固執する限り、市民の生命の危険を承知で老朽施設を使い続けるか、インフラを休止して公共サービスを止めるか、子や孫に多額のつけを残すかという愚かな選択を強いられる。それでは地域に明日は来ない。変えるのは今、なのだ。

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 「これが言いたい」は毎週木曜日に掲載します

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 ■人物略歴

 ◇ねもと・ゆうじ
 日本政策投資銀行を経て現職(PPP研究センター長兼務)。専門は公民連携、地域再生。

自民党:特命委中間報告でも原発政策先送り
日銀:物価上昇率「当面1%」 市場では実現性を疑問視
東日本大震災:地滑り丘陵地も集団移転促進…仙台市方針
東日本大震災:農業再生へ仙台市が復興特区を単独申請
毎日新聞 2012年2月16日 東京朝刊
http://mainichi.jp/select/opinion/iitai/news/20120216ddm004070005000c.html

One Reply to “公共施設老朽化が一気に深刻化する”

  1. 10年程前から話題に上がっていますね。橋については通行規制が出始めているのに、あまりニュースにならないような気がします。不安だからかなぁ?

    東京都がインフラ老朽化対策でかなりの予算を組んだというニュースは見かけた憶えがあるのですが…。

    実家の近所にある黄瀬川橋(一級河川、県道)も老朽化のため架け替え工事が行われています。

    この橋は、平成8年に香貫大橋が架かったこともあり、昔に比べればずいぶん交通量も減っていたのですが、東西南北かなりの渋滞増です。一昨日、ついうっかり夕方に買い物に行ってしまい、10分で着くところが1時間以上もかかってしまいました。平成26年3月末の完成予定なので、あと2年は不便ですね。

    このあと、黄瀬川大橋(200mほど上流)も架け替えだそうです。こちらは旧国道1号線で交通量もあるので仮設橋とか架けるのかなぁ…。黄瀬川橋にも歩行者専用の仮設橋は架かっていますが…。

    黄瀬川橋は河川の改修が必要だという判断と、用地買収の関係で道路が急勾配&カーブになっていたため、架け替えとなったわけですけれども、黄瀬川大橋は補強で寿命を延ばすやり方は取れないのかなぁと思います。

    ■日本の橋梁の現況
    http://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/yobo1_1.pdf

    ■道路橋の寿命推計に関する調査研究
    http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0223.htm

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