バス運転手不足の現状 

河北新報 2015年4月20日 社説

『バス運転手不足/事態は深刻さを増している』

 「慢性的な不足が続いてきたが、その傾向はここ数年、より顕著になっている」。東北のあるバス事業者の担当者が厳しい現実を口にする。
 市民の足となっているバスの運転手不足が深刻だ。
 東北運輸局は昨年末、東北の事業者を対象に聞き取りを実施。各社とも「不足に頭を抱えている」「今後も厳しさが続く」と回答したという。
 運転手不足は全国的な課題だが「東北では東日本大震災後、状況が悪化した」と関係者は口をそろえる。
 被災地の復興工事の本格化でダンプやトラックの運転手需要が急増。賃金上昇も加わり、バス業界から転職する例などが相次いだとみられる。
 路線バスを維持するため、各社は対応に苦慮している。東北運輸局の調査によると、高速バスを減便したり、貸し切りバスの申し込みを断ったりしていた。
 高速、貸し切りは比較的、収益性が高い。こうした事業を削って運転手をやりくりしている実態には、経営への影響を危惧する声も上がる。

 一般の路線バスに手を付けるケースも出ている。東北のある事業者は今春、一つの営業所内で減便に踏み切った。減便効果は平日の運転手4人分に相当し、都市部の路線バス維持につながるという。
 この事業者はほぼ同時に高速バスの一部も減便した。担当者は「いずれも苦渋の決断だった」と説明する。
 不足には今後、拍車が掛かる恐れがある。国土交通省のまとめでは、バス運転手の平均年齢は48.3歳。全産業平均の42.0歳より高い。
 若手の少なさは東北も同じだ。東北運輸局によると、一般路線バスを運行する19社の運転手は5千人弱(昨年11月)。このうち20代はわずか3%、30代は13%にとどまる。
 一方で、50代が37%、60代以上が18%に上る。こうした世代が引退すれば深刻な事態に陥りかねない。若い世代の人材確保は急務だ。

 女性にも注目が集まる。女性運転手の比率は全国平均2.4%で、全産業42.8%とは比較するまでもないほど低い。東北は19社合わせて60人で1.2%しかいない。
 宮城交通(仙台市)は昨年、女性運転手を積極的に採用する方針を打ち出した。グループ全体で2020年までに100人に増やす目標で、説明会を兼ねた女性限定の運転体験会も試みている。
 取り組みの効果があり、これまでに11人を採用。約1100人の全運転手に占める割合はまだわずかだが、女性は養成中を含め22人に増えた。

 全国で女性専用の休憩室を設けるといった対応が進んできたものの、さらなる人材確保には働きやすい勤務体系や待遇改善などが求められる。

 国は今後、先進的な事例を掘り起こして紹介していく方針だが「東北では示せるような具体例がまだ見つかっていない」(東北運輸局)。
 高齢化の進展で公共交通機関としてのバスの重要性が、都市部も含めて高まるのは間違いない。運転手不足の解決を、事業者の努力に委ねるだけでいいのかどうか。地域社会が抱える課題として知恵を絞る必要がありそうだ。

http://www.kahoku.co.jp/editorial/20150420_01.html

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