ボランティアバス 観光庁が待った 有料は違法

『ボランティアバス
観光庁が待った 有料は違法、厳格対処』

毎日新聞2016年6月11日 大阪夕刊

 NPOなどがボランティアを被災地にバスで派遣する「ボランティアバス」で、公募した参加者から参加費を直接集めるのは実費だけでも旅行業法違反として、観光庁が5月末、業者への委託など是正を求める通知を全都道府県に出していたことが分かった。ボランティアバスは東日本大震災以降、全国で広がり、事実上“黙認”されてきたが、一転して厳格化の方針を打ち出した。多くは法に抵触するとみられ、熊本地震への派遣を取りやめる動きも出ている。

 旅行業法は主催者が報酬を得て運送や宿泊を行う場合、国や都道府県への事前登録を義務づけている。同法の施行要領では、旅行者から金銭を受け取れば、「報酬」と認定される。

 通知は5月25日付で、「登録を受けていないNPOや社会福祉協議会が主催者となり、参加代金を収受してボランティアツアーを実施する事例が見受けられる」と参加費の徴収を問題視。主催団体に対し、旅行業者として都道府県や国から登録を受ける▽業者にツアー自体や参加費の徴収を委託する−−などを指導するよう都道府県に求めた。

 観光庁観光産業課によると、今年5月、熊本地震の被災地に向かうボランティアバスを巡り、各県や同庁に「旅行業法に抵触しているのではないか」との電話が多数あったことを受けた対応という。同課は「参加者を公募し、参加費を収受した時点で旅行業法に抵触する」とし、主催団体が利益を得ない場合も徴収は認められないという。

 違法にならないのは参加費を徴収しない、または公募せず顔見知りだけで同乗−−の場合。影響は既に出ており、福岡県のNPOは5月中旬、熊本地震のボランティアバスについて、同県から「旅行業法違反では」と指摘を受けた。「誤解を招かないように」と3000〜4000円だった参加費を無料にした。大阪府などの団体は熊本への派遣を中止したという。NPO関係者は「被災地のボランティア活動を続けるためにも何らかの支援策が必要だ」と話している。【尾崎修二】

参加費徴収方法、旅行会社経由に
 大阪では料金の徴収方法を変えたケースもある。

 6月5〜8日に熊本市にボランティアバスを合同で派遣した大阪府と大阪、堺両市の社会福祉協議会。5月末に九州の男性から大阪市社協に「社会福祉協議会がバスをあっせんするのは旅行業法違反ではないか」と電話があった。

 3社協は宿泊費と交通費の実費計8000円を参加者から集めて旅行会社にまとめて渡す予定だったが、この電話を受けて各参加者が旅行会社に振り込む方式に変更した。

 大阪市ボランティア・市民活動センターの脇坂博史副所長は「参加費の徴収方法の変更は面倒な手続きではなかったが、参加者に振込手数料を負担させる形になってしまった」と話した。【遠藤浩二】

 ■ことば

ボランティアバス
 NPO法人や社会福祉協議会、有志団体などが、被災地にボランティアを派遣するためにバス業者を手配して組むツアー。参加者の交通費や受け入れ先の負担を軽減できるほか、渋滞緩和にもつながるとして東日本大震災以降に広がった。金曜夜に被災地へ向けて出発し、土・日曜に戻る「週末ツアー」が多い。東日本大震災から5年が経過した被災地では、観光や被災者との交流、防災教育などの要素を組み込んだツアーもあり、群馬県のある団体はこれまで100回で延べ3000人以上を東北へ運んだという。

http://mainichi.jp/articles/20160611/ddf/001/040/002000c

『ボランティアバス
旅行業法違反 黙認一転、クロに戸惑い 復興庁知らず』

毎日新聞2016年6月11日 東京夕刊

 「なぜいきなりこんな通知が出たのか」。災害時のボランティア派遣の交通手段として浸透してきた「ボランティアバス」について、事実上黙認してきた観光庁が一転、旅行業法違反だとして、是正を求める通知を出し、全国のボランティア関係者の間で戸惑いが広がっている。ただ、復興庁のホームページには観光庁が「クロ」とするボランティアバスを紹介するサイトがあるなど“矛盾”もみられる。【尾崎修二】

 「旅行業の登録をするか、運送・宿泊の手配について、旅行業者へ依頼する必要があるので、対応をお願いします」。東日本大震災以来、東北への被災地派遣を企画してきた千葉県のボランティア団体「ちば→とうほくボランティアバス」は5月末、千葉県観光企画課から突然届いたメールに目を疑った。

 代表の渡辺俊夫さん(56)によると、旅行業法のことが気になり、4年前に国に問い合わせた。「利益を上げない場合は黙認する」と言われ、地元のバス業者を直接手配し運営を続けてきたという。

 最近はバス代が高騰し、バスを出すのも難しくなっていた。通知の通り、旅行業者に委託した場合、「参加料の引き上げは必至。災害が起きた直後の迅速な派遣もしにくくなるのでは」と心配が募るばかりだ。

 各地の災害ボランティアセンターで活動経験がある関西の社会福祉協議会の男性職員も「東日本大震災の後、観光庁の担当者が『ボランティアバスのような臨時的な取り組みは旅行業法上の業にあたらない』と容認していたと聞いていたのに」と打ち明ける。

 各県庁の動きを受け、社会福祉法人中央共同募金会は、熊本地震の被災地で活動するボランティア団体やNPOへの助成事業の募集要項に「ボランティアバスを実施する場合は旅行業法にのっとるように」と書き込んだ。これまで同会の助成事業を頼りに活動してきた群馬県のボランティア団体代表の女性(64)は「助成を申請する予定だったが、どこの業者に委託していいのかも見当がつかないので、今回は諦める」と残念がった。一方、2013年以降、地元の業者に委託して東北行きのボランティアバスを出してきた神奈川県のNPOは「ボランティア活動に理解ある旅行業者を探し、信頼関係を築いていくしかないのでは」と話した。

 復興庁は全国のボランティアバスを紹介するサイトをホームページ上に掲載するが、観光庁の通知に従えば「違法業者」の可能性がある。復興庁の担当者は「ほとんどは旅行代理店が絡んで運用していると思っていた。法に抵触するかはよく考えたこともなかった」といい、観光庁の担当者は「今回の通知は復興庁には伝えていない」と話している。

http://mainichi.jp/articles/20160611/dde/041/040/009000c

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